
経営危機に直面する中、先代の急逝からわずか2週間で承継を決意し、「第二創業」として新たな成長フェーズへと舵を切った株式会社アルメディア・ネットワーク。
同社が選んだのは、先代から受け継いだ技術資産と「人」を徹底的に活かし、守りながら攻める「ベンチャー型事業承継」でした。代表取締役社長の堀内昂陽氏に、壮絶な承継の決断から、社員と共に困難を乗り越えた革新の道のり、そして未来のビジョンについて伺いました。
承継の背景と「第二創業」の決断:経営危機を乗り越える
Q どのようなきっかけで、家業であるアルメディア・ネットワークの経営を引き継ぐことを決意されたのでしょうか。
A 私は元々IT業界とは全く無縁で、前職では電機業界で生産技術職として、設備からサプ
ライチェーンの立ち上げを担当していました。家業を継ぐことは考えていなかったのですが、先代の病気が分かったときに状況が一変しました。医師から「回復の見込みが薄い」と告げられ、会社の今後をどうするかという話になりました。
最終的に経営の責任を負える私が退職して家業に入ることになりました。引き継ぎ期間はゼロだったので、「いきなり本番が始まった」というのが、当時の正直な感覚でした。

Q 社長就任時の会社の状況、そして「第二創業」を決断された理由をお聞かせください。
A 引き継いだ当初の会社の実態は非常に厳しいものでした。事業面は多重下請けの構造
で薄利な仕事ばかり、財務基盤は連続した赤字、低い自己資本比率、債務超過に近しいと
いう危機的な状況でした。
加えて、売上げに直結しない経費、バックオフィス部門の属人化、低い人材投資など非効
率な部分が山積していました。
この危機的状況だからこそ、従来のやり方を踏襲するのではなく、根本的に会社を変える必要があると痛感しました。これが、2019年4月にスタートさせた「第二創業」です。
私が目指したのは、目の前の借金を返すだけの「守り」ではなく、「どんな価値を社会に提供する会社として存在していくのか」を、社員と一緒に考え抜き、「防衛だけでなく、攻めのフェーズに入っていく」ことです。これが、まさに私たちが実践したかった「ベンチャー型事業承継」の決意となりました。

承継後の革新と挑戦:「人」と「仕組み」で組織を自律化する
Q 厳しい状況の中、承継者が持つ「有形・無形の経営資源」をどのように活用し、事業構造の変革に繋げましたか。
A 危機的財務状況でしたが、先代が長年築いてきた「お客様との信頼関係」と、真面目で誠実なエンジニアが揃っているという「技術者集団」という二つの資源は最大限活かせるものでした。
そこで、会社再生の戦略を「成長」「効率化」「基盤」の3つの視点で再構築しました。
● 【基盤】の強化(守り): 社員の雇用と健康を守るため、労務管理の安心を徹底。勤怠管理を徹底し、技術開発や研修センター設立など、社員教育の基盤を築きました。
● 【効率化】の実現: 規模に合ったオフィスへの移転や、売上に直結しない経費を徹底的に見直しました。属人化していたバックオフィス業務のシステム化など、徹底したコスト構造の見直しを行いました。
● 【成長】への投資(攻め): 多重下請けから脱却し、「エンドユーザー起点」でのSES(技術者が顧客企業に常駐してシステム開発などを支援するサービス)と受託開発にシフト。チーム体制での業務拡大を進め、クラウド人材育成や技術ノウハウの蓄積に積極的に投資しました。

Q 会社を変革する上で、最も大変だったこと、そしてそれを乗り越えるために導入した「組織の仕組み」について教えてください。
A やはり、社員の意識改革と組織の自律化が最も大変でした。私一人で全てを担うのは
不可能だと理解し、「組織と役職に責任と権限を与える」という方針を徹底しました。
そのため、部長たちに数字責任や労務管理、人事評価の権限を委譲しましたが、同時に「
評価の基準を揃える仕組み」が必要でした。
● 評価者研修の徹底: 各部門の管理職に対し、3ヶ月間にわたる評価者研修を導入。労働基準や自社の人事制度、会社としての判断基準を徹底的に浸透させ、公平な人事評価を可能にしました。
● 権限委譲とチェック: 人事評価は各部門に任せますが、最終的に社長が全てをチェックします。これは単なる点検ではなく、部長の評価理由を問うことで、部長の判断基準と会社の判断基準を揃えることを目的としています。
この「仕組み」を回すことで、組織が自律的に動き出しました。承継時の改革で一時的に3割の社員が退職しましたが、現在はそれを乗り越え、社員数も安定的に確保できています。

Q 貴社が注力されている「アルメディア未来塾」や「堀内社長と話そう会」の具体的な取り組みと、狙いを詳しくお聞かせください。
A 社員が「成長し続けられる」環境を提供するため、私たちは徹底した人材投資を続けています。
● アルメディア未来塾: 2022年から開始し、ビジネスパーソンとしての基礎能力を鍛える研修です。もともと「七つの習慣」をベースに社内で実施していましたが、現在は商工会にアレンジを依頼し、学生や同業の方も参加できる開かれた研修として、年間5〜6回開催しています。
● 研修参加率の指標化: 私たちは、この未来塾の研修参加率を、「会社への帰属意識」を測る重要な指標として捉えています。当初2〜3割程度だった参加率は、今では7割超えを達成しました。
● 堀内社長と話そう会: 承継初年度から年1回、全社員と1対1で面談。「メンタルチェック」に加え、「自分の強みをどのように活かしていきたいか」「どんな価値を生み出していきたいか」という自己分析を促すことが目的です。 社員一人ひとりが、自分らしさや強みを起点にキャリアを描きながら、その延長線上に会社やお客様の成長がつながっているという感覚を持てるよう、対話を重ねています。これは、2028年に目指す目標管理設定の人事制度への布石でもあります。

Q 「ベンチャー型事業承継の核」となる、具体的な新規事業や事業転換についてお聞かせください。
A 私自身の前職での「何が原因なのかを徹底的に探る習慣」が、新規事業や経営改善に非常に役立っています。
具体的には、SES(技術者が顧客企業に常駐してシステム開発などを支援するサービス)の領域を「多重下請け」から「エンドユーザー近くでのチームでの業務拡大」へ移行したことに加え、「ユーザーインした業務系サービス」の開発を目指しています。 私たちが培ってきたIT技術を、顧客の課題解決に直結するDX支援へと進化させています。
また、賃上げの実現も、社員の頑張りがきちんと処遇に反映される会社にしたいという挑戦の一つです。事業承継を行った初年度を除き、毎年、物価動向や世間の賃上げ水準を上回るベースアップを続けており、「社員の成長と成果は、できる限り給与でお返しする」という方針を大事にしています。
永続的な経営と未来のアトツギへのメッセージ
Q 経営破綻寸前の危機から安定的な財務体質を確立されましたが、今後の事業展開の具体的な方向性をお聞かせください。
A 承継後の2年間で、自己資本比率は41ポイントUP、営業利益率も8.5ポイントUPへと回復しました。現在は2028年度に売上高10億円、営業利益率8%の達成を目標に、内部留保の蓄積に集中しています。
当初は「指標としてまず置いた目標値」という位置づけでしたが、現在は現実的な達成ラインとして視野に入ってきています。そして、2028年度に2030年度の会社の姿を社員・部長と一緒に決
断します。 目指すのは「自己成長が見込める」「M&Aで会社の成長が可能」「上場も目指せる」会社であり続けることです。

Q 最後に、これから事業承継や新規事業への挑戦を志す「未来のアトツギ」に向けてメッセージをお願いします。
A 私の承継からの数年間は、「会社を沈めないための防衛」が中心でした。この経験から学んだのは、「変えるべきところ」と「残すべきところ」を冷静に見極める重要性です。
当社は皆様がイメージする「キラキラIT」ではなく、「堅実で地に足のついた経営」という社風を良い部分として意識的に残しました。また、創業18年で引き継いだ際、「お客さんとの信頼関係」と、「今いるエンジニアが安心して長く働いてもらうための施策」(従業員)の二つは、創業から生き残ってきた核であり、絶対に守るべき資産だと判断しました。
厳しい状況での承継は、全てを投げ出したくなる瞬間もあるかもしれません。しかし、まずはその核となる強み、そして社員一人ひとりの可能性を信じ、逃げずに現状と向き合ってください。そして、「社員を大切にする暖かい経営」を徹底し、社員を成長の原動力とすれば、必ず道は開けます。勇気を持って、挑戦し続けていきましょう。

【取材協力】 株式会社アルメディア・ネットワーク
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(文/写真:麻柄 瑶子)

