公益財団法人 大阪産業局

「物売りからコト売り」へ。AIを武器に、木材商社の常識を変える女性社長の挑戦 (株式会社日本木材 代表取締役 長谷部 愛 氏)

 

堅い木材であるハードウッドを中心とした輸入・販売を手がけてきた株式会社日本木材は創業1979年。その歴史は、オイルショック後の創業、そしてインドネシアの「丸太輸出禁止」という法改正の荒波を製造業への転換で乗り越えてきた、まさに挑戦の連続でした。
そんな老舗の専門商社を率いるのが、二代目社長の長谷部氏。年配の男性経営者が多くを占める木材業界で、女性経営者として新たな風を吹き込んでいます。今回は、紆余曲折を経て家業を継ぎ、「物売りからコト売り」へと事業の変革に挑む長谷部社長の熱い想いと、その原動力に迫ります。

 

BtoBからライフスタイル事業へ。価値観を変える木材の提案

Q 木材業界という歴史あるフィールドで、今、どのような変革を進めていますか。

A 私の父である創業者は、元々商社の駐在員としてインドネシアに赴任し、現地の経済を担う中華系富裕層に後押しされて独立しました。しかし、丸太の輸出禁止という法改正により、一転して製造業へと舵を切らざるを得ませんでした。加工工場を建設するも一度は失敗し、二度目の挑戦でようやく軌道に乗せるという、大きな苦難を経験しています。
この歴史を経て、会社は長らくウッドデッキなどのアウトドア系木材を、二次卸しという形で販売する完全にBtoBの事業が中心でした。しかし、お客様との接点が遠く、結果的に利益率の面で厳しいと感じる部分も大きかったんです。そこで、思い切って事業の方向性を変えようとしています。
キーワードは「物売りからコト売り」への転換です。木材を軸としつつも、単に「木」を売る会社ではなく、「心地よい住空間をお手伝いするライフスタイル事業」を営む会社へと変えていきたいと考えています。

 

 

Q ライフスタイル事業として、具体的にどのような商品を展開されていますか。

A 今はまさにその第一歩として、木材を使った家具やインテリア雑貨など、エンドユーザーに近い商品開発と販売に力を入れ始めています。
父が会社を創業した当時、まだ使い道のない「ゴムの木」を集成材として活用したように、私たちも新しい付加価値を生み出すことに挑戦しています。具体的には、建築材としては不良在庫となる木材を、アート作品として生まれ変わらせる取り組みも始めています。

 

 

Q 御社の事業の軸である木材について、どのような特徴がありますか。

A インドネシアの木は硬く、非常に腐りにくいという特徴があります。これに加え、環境に配慮した商材の開拓も進めています。熱帯雨林の木の中には、日本の木材の何倍ものスピードで二酸化炭素を吸収する「植林木」があります。そうした木材を内装向けの部材として活用することで、環境に優しいというストーリーとともに、ライフスタイルを提案していきたいと考えています。

 

 

 

Q 経営において、先代の社長とはどのような考え方の違いがありましたか。

A 父とは利益に対する考え方でぶつかったこともあります。銀行からの借り入れなしで経営を続けてきた父は「税金を払わないように」という意識が強かったのですが、私は中小企業診断士の視点から、利益率を改善し、「ちゃんと利益を出して納税もする、健全な経営」を追求したい。この考え方の違いを、対話を重ねることで乗り越え、新たな収益の柱を作ることに注力しています。

 

 

 

AIで経営の「勘」を定量化。属人化を防ぐデジタル戦略

Q 組織体制や業務効率化において、どのような工夫をされていますか。

A 当社は、社長である父、母、そして私の3人体制でやってきました。その中で、データを扱うのは私だけ。特に在庫の売れ行き分析などは、父が「勘」で行っていた部分が非常に大きく、このノウハウをどうにか「定量化」し、属人化を防ぐ必要がありました。父が培ってきた「木材を見る目」という長年の経験知を、会社に残していくことは喫緊の課題でした。

 

 

Q 具体的に、どのような形でAIを活用されているのでしょうか。

A 今は在庫分析が主な活用方法ですが、将来的には、木材の特徴を画像データで判断するためのノウハウを定量化できるように活用を進めていきたいと考えています。
例えば、仕入れ先から送られてきた写真を見て、乾燥不良がないかなどを判断できるようになれば、父の経験を仕組みとして引き継げます。
また、AIを使い始めて衝撃的だったのは、事業承継計画です。エクセルで苦労して作っていた計画書とほぼ同じようなものが、AIに箇条書きで指示を出すだけでパッと表になって出てきたんです。AIは、経験が浅い私が「勘」に頼らず、ロジカルに経営を進めるための強力なパートナーになっています。

 

 

女性経営者としての視点。家業が持つ「資産」の再評価

Q 長谷部社長が家業を継ぐことになったきっかけは何でしょうか。

A 私はもともとNTTに就職しました。「絶対潰れない会社」に入ろうという、父の苦労を見てきた者なりの選択でした。しかし、大企業では自分が「一歯車」的な存在であることに疑問を感じ、裁量の大きい子会社へ出向しました。そこで「自分で企画し、契約書まで作り、責任を持って実行する」というオーナーシップの楽しさに気づいたんです。
その後、中小企業診断士の資格を取得したのも、家業を継ぐためというより、「中にいる会社の問題解決を手伝いたい」という思いからでした。最終的に事業承継を決意したのは、長男が生まれた後、交流が密になっていた父から「あと3年で会社をたたむわ」と告げられたときです。父にとって引き継ぎ先を探すのに必要な時間を見越しての言葉だったと思いますが、その時、「会社をたたむくらいなら、私が継ごう」と思いました。

 

 

Q 家業を継ぐことの最大の価値は何だとお考えですか

A すでに環境が整っているという点です。長年にわたる取引先、銀行の信用、そして何十年と継続してきた歴史という「資産」がある。スタートアップは9割が失敗すると言われている中で、この資産をゼロにしてしまうのは非常にもったいないことです。
家業を古臭いと感じるかもしれません。しかし、その古臭さの裏には、「何十年も事業を継続できたすごさ」が必ずあります。その素晴らしさに目を向けることが、アトツギとしての第一歩になるのではないでしょうか。

 

 

Q 業界で女性経営者として苦労されたことはありますか。

A 私が家業に入った当初は、業界の年配の男性経営者から「何もわかれへんやろ」といった冷ややかな視線を受けることもありました。しかし、それはこの業界特有のものではなく、どんな古い業界にもあることだと割り切り、気にせず自分のやるべきことに集中することで乗り越えてきました。

 

 

 

すべては「ネタ」になる。アトツギに贈るポジティブなマインドセット

Q 今後、事業承継を控える方や、迷っているアトツギ候補者の方々へメッセージをお願いします。

A アトツギには、多かれ少なかれ挑戦や困難が待っています。だからこそ一番大事なのは、ストレスを溜めないこと、そして自分を追い込まないことです。
私の人生観ですが、「人生、すべてネタ作り」と思っています。
事業承継後の苦しいことも、家族として大変だったことも、振り返ればすべてが将来の「ネタ」になるんです。そう考えると、どんな困難にも前向きに立ち向かうことができる。私も中小企業診断士という外部の視点と、前職での経験をフル活用して、この木材業界での挑戦を続けていきます。

 

【取材協力】
株式会社日本木材
〒592-8349 大阪府堺市西区浜寺諏訪森町東2-157-11
HP:https://japan-timber.com/#top_r

(文/写真:麻柄 瑶子)

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